春の風が丘をなでる。ふたりは小高い山に登り、敵地を見下ろしていた。
武王(姫発)(手をかざして遠くを眺めつつ)「お姉様……あそこに見える敵の砦……本当に兵がいるのかしら? 何だか静かすぎて、妙な気がいたしますの」
呂尚(太公望)(くるりと髪をいじりながら)「姫発ちゃん、それ、超鋭いわよ♡ 実はね──敵の陣が“空っぽ”か、それとも“本当にいる”かって、ちゃんと見極めるコツがあるの」
武王「まあっ……! それを見抜けたら、戦の行方もまるで違いますわね!」
呂尚(キリッとした表情で)「いい? 兵法ってのはね、“高いところ”から全体を俯瞰するのが基本。まずは《登高望遠》──高所に登って敵をよく観察するの」
武王(頷きながら)「はいっ。視野を広く持つのが要なのですね!」
呂尚「たとえばさ、鼓の音も、鉦(かね)の音も一切しない。でもそのわりに、砦の上には鳥がいっぱい止まってて、ぜんぜん驚いてない──その時点で、ほぼ“カラ”確定♡」
武王(目を丸くして)「まぁっ……鼓も鳴らず、鳥も逃げず、埃も立たぬ……つまり、中に兵がいないということでございますのね!」
呂尚「そうそう♡ しかもね──敵が急に引いてすぐ戻ってきたとき? あれは“軍の運用がグダってる”サインなの。こういうとき、部隊はバラバラで乱れやすいのよ」
武王「ふむふむ……急に出て急に戻る──“慌ててる”時は、逆に狙い目ですわね?」
呂尚(ニヤリ)「その通り♡ そんな相手は、こちらが“少数”でも叩けばボロが出る。混乱してる軍に、整った軍で当たれば、勝つのは当然よね♡」
炎暑の午後。風が乾いた大地を撫で、草木は音もなく揺れていた――。
武王(姫発)(少し不安げに)「お姉様……もし、敵の領地深くまで進軍して、周囲が深い草むらに囲まれていたら……。わたくしたち、行軍の疲れで人馬ともに休みたくなるかと思いますの……」
呂尚(太公望)(真剣な表情で)「そういうときこそ、最大の危機が潜んでるのよ、姫発ちゃん。特に──風が強くて乾燥してる日はね。敵が火を放てば、一瞬で地獄と化すわ」
武王(はっとして)「火を、放たれたら……!」
呂尚「うん。敵が上風から火を放ってきて、後方には精鋭部隊を伏せてるとする。火に気を取られて動揺したところへ、後ろからドーン。三軍は大混乱よ」
武王(小さく手を握って)「で、でも……どうすれば……!?」
呂尚(キリッと指を立てて)「落ち着いて、こうするの! すぐに《雲梯》や《飛楼》を立てて、高所から前後左右を監視。もし火が上がったら――」
武王(ごくり)「わたくしたちも……火をつける……のですか?」
呂尚「正解♡ 敵より先に、こちらの前方と後方に火を放つの。草を燃やして、あえて《黒地=焼け跡》を作って、そこに移動して布陣!」
武王「まあ……燃えた場所は、もう火が来ませんものね!」
呂尚「そう。焼け跡は火が進まないし、煙で視界も遮れる。敵が来ようとしても、こっちが先にポジション取ってるってわけ。さらに、強弩兵で左右を守って、残りの草地も焼いておけば、もう火攻めは無力よ♡」
武王(息を詰めて)「お姉様……火で囲まれ、敵の大軍が迫ってきたら……!? もう、どうしようもないのでは……?」
呂尚(静かに首を振って)「まだ勝機はあるわ。こういうときは、《四武衝陣》を組んで備えるの!」
武王「し、四武衝……?」
呂尚「兵を四方に分けて、中央を守る陣形よ。しかも、強弩兵は左右に集中配置。火と煙で囲まれても、敵が入り込めないよう守りを固めるの。……ただし、この策は《勝てはしない》けど、《敗けもしない》ってやつ。“無事に退く”ことを第一に考えた陣形よ」
武王(神妙に)「……負けないということも、大切な勝利ですのね」
呂尚「そういうこと♡ 火計には機を見て動く勇気と、退く覚悟の両方がいるの。姫発ちゃんも、ちゃんと覚えておいてね」
太史編「“火戦篇”は、火を使った奇襲にどう備えるかってお話だよ〜! 風向き・地形・草木の状態って、ぜんぶ火計のカギなの!」
武王「火に囲まれても、まだ……できることはあるのですね。わたくし……もう“火”は怖くありませんっ!」
呂尚「ふふっ、いい心構えね♡ 火は恐れるものじゃなくて、利用するものよ。──でも、その火を操れるのは、“冷静な心”を持った王だけ、ってことも忘れないでね?」
武王「はいっ! わたくし、ぜったいに冷静で、強くて、民を守れる王になりますっ!」
姫発(武王)「ねえねえ、お姉様っ。このあいだ戦に勝って、そのままズンズンと敵の領土に進軍してるんだけど――でも、まだ落としきれてない大きな城があって。しかも、その外には別の敵軍が要所に立て籠もってて、わたくしたちをじーっとにらんでいるの。こんなとき、どうしたらいいのかしら?」
呂尚(太公望)「ふん、敵の分断にうまく対応しないと、こっちがヤバい状況になっちゃうわよ? 城を包囲するときは、まずは車隊と騎兵を遠方に展開して、内と外の連携を断つの。そうすれば城内の食料は底をついて、補給もできなくなる。そうなったら、敵の士気はガタ落ち。城主だっていずれ降伏するしかないってワケ。」
姫発「あらっ、それはお見事ですわ! でもでも――もしも城内の敵と、外にいた別軍が、こっそり結託してたら……? 闇に紛れて突撃してきて、しかも外からもバビューンと襲いかかってきたら、わたくしたち、二方向からボコられちゃうかも!?」
呂尚「ああもう、姫発ったら心配性ねぇ。そういうときは、軍を三つに分けて布陣すればいいのよ。まずは地形をしっかり見て、敵軍と城の配置をガン見。それから、ワザと抜け道を残してあげるの。ほら、敵ってそういうの大好きでしょ? 敵は“ラッキー!逃げ道があるじゃん!”って錯覚して、ワラワラ突撃してくる。でもこっちは全部計算済み。退路だと思ってたその道は、精鋭の騎兵が待ち伏せしてるお・も・て・な・し♡」
姫発「わあ〜っ!まさに“入口でニッコリ、出口でズドン”な感じですのねっ!」
呂尚「さらに、突撃してくるのは基本、敵のエース級ばかり。その間に、城内に残ってるのは老人や負傷兵ばっかりになるのよ。そこに我が軍の第三軍を一気に投入して、スパーンと蹴散らすの。」
姫発「すごい……!それって、敵の逃げ道をわざと作ってあげて、その“善意”を逆手に取るってことですのね? まるで心理戦ですわ!」
呂尚「ふふっ、戦場ってのは“やさしさ”すら武器になるのよ? でもね、肝心なのは――勝っても調子に乗らないこと! 城を落とした後は、民の家を燃やしちゃダメ。お墓の木も切っちゃダメ。降伏した者は、けっして殺しちゃダメ。“お前らの主君がバカだっただけ。お前らには罪はない”――って、ちゃんと知らせてあげるの。」
姫発「あぁ……それなら、敵の民たちも安心して、わたくしたちに心を許してくれますわねっ。」
呂尚「そうよ。そうやって武力だけじゃなくて、徳でも服させるの。真に天下を取るってのは、そういうことなのよ。……わかった?」
姫発「うふふ、お姉様……♡ お話を聞いていると、ますます心が引き締まってきますの。これこそ――天下を治める者の覚悟、でございますわねっ!」
武王(姫発)「お姉様……! もしも、わたくしが敵の国へ兵を進めた時に……その敵が、わたくしの食糧を運ぶ道を断ち、さらに前と後ろから挟み撃ちにしてきたら……!? 進めば勝てませんし、守っても長くはもちません。……こんな時、どうすればよいのでしょう……?」
呂尚(太公望)「ふっ、姫発ちゃん、そういうとこ偉いわね。でも安心して。そーゆーヤバい展開、兵法ではちゃんと想定済みなのよ☆ まずね、敵国に深く攻め入る時は“地形”マジで大事! 山とか森とか、水源とか崖とか──自然の地形を味方につけるの。そこにしっかり拠点を築いて、橋や関所をがっつり守る! さらに、城とか古墳みたいな起伏のある地形も活かして布陣しとけば──\じゃーん!/ 敵はアンタの糧道(補給路)を断つことも、後ろに回ることも、ムリ♡」
武王(姫発)「まぁ……! つまり、最初の陣取りで負けてはいけないのですわね……! でも……もし、わたくしたちが大きな森や沼や広い平地を進んでいるときに──“援軍はまだ来ておりません! 敵軍がこちらへ!”なんて、急に敵が来てしまったら!? しかも……進むにも勝てそうになく、守っても崩れそうで……わたくしたち、敵に左右からも、後ろからも包囲されてしまいましたの……! どうすれば……!」
呂尚(太公望)「姫発ちゃん、そーいう時こそ冷静に! 戦いの基本は──\情報戦♡/ まず、あたしなら敵から200里離れたとこに偵察部隊(遠候)をバシッと出すね。敵の居場所や動き、完璧に把握しておくの。それができてたら、地形がヤバくても“武冲(ぶちこみ系の戦車)”でバリケードつくりながら前進する! そして主力部隊の後ろに、後衛部隊を2つ配置しておく。遠いほうは100里、近いほうは50里くらいね。で、いざって時は──\全軍で相互カバー♡/ 前も後ろも万全の救援体制♡ これで敵に囲まれても、絶対に負けないから!」
武王(姫発)「まぁ……! そうしていれば、わたくしたちの三軍は……常に完全な備えで、どんな包囲にも負けない軍になりますのね……!」
呂尚(太公望)「そ♡ だから言ったでしょ? 王者の軍は、備えの時点で勝ってんのよ♪」
姫発「これまで教わった中でも、一番ドキドキする戦いのお話でしたわ……! でも、わたくし……もう怖くありません。お姉様が教えてくださった通り、備えあれば、勝ちもある! ……ですわよね♡」
武王・姫発(小声で)「お姉様…ちょっと聞いてもいいかしら…?」
太公望・呂尚(ちらと視線を上げ)「……あぁ? 今日は何? また兵法の続き?」
姫発(まじめに)「もし、敵の国に軍を進めていたら、ちょうど酷い寒さとか、暑さとか、大雨が続いて…溝も壕も崩れちゃって、守るべきところも守れなくなって、哨戒の兵たちも怠け始めて、皆が油断してる中で…敵が夜に襲ってきたら…」
呂尚(軽くため息まじりに)「……ふん、ありがちな状況ね。つまり、三軍がぜーんぶ油断して、上下がパニックってるときに夜襲かけられたらどうすんの?って話でしょ?」
姫発(こくりと頷く)「はい…!」
呂尚(真剣に目を細めて)「兵を率いるってのはね、まず“油断しない”ってことが前提。『三軍は、備えあれば堅し、怠れば必ず敗れる』…これは兵法のイロハよ。」
姫発(メモしながら)「はい…“戒めこそ、三軍の命”ですね…!」
呂尚「夜でも垒(とりで)には絶えず“誰何(すいか)”を叫ぶ哨戒を立てて、人は旌旗を持ち、内と外が互いに合図で繋がるようにしておく。金や鼓の音を絶やさず、皆が常に外を向いて、戦えるようにするの。わかった?」
姫発「はい、お姉様!」
呂尚「でね、一屯は三千人で構成して、それぞれにしっかり“戒めと約束”を叩き込むの。…こうして備えが整ってれば、敵が来てもね、あいつらは“うわ、ガチ警戒されてる!”ってビビってすぐ帰ってくわ。」
姫発(嬉しそうに)「うふふ、お姉様の軍、かっこいい…!」
呂尚(すこし照れながら)「……バカね。で、そこからが本番。敵が油断して帰ろうとしたとこに、こっちの精鋭をぶつける。後ろからスパーンとね。」
姫発「でも…もしその敵が、お姉様のそういう行動を先に読んでて…わざと撤退するふりをして、伏兵を隠してたら…?」
呂尚(目を細めてニヤリ)「……やるじゃん、姫発。そういう想定、大事よ。」
姫発「えへへ…」
呂尚(真面目なトーンで)「そんなときは、軍を三隊に分けて慎重に追跡。絶対に敵の伏兵の“中”に入らないようにね。三隊が同時に敵に接触して、後ろを叩き、側面を突き、明確な号令で一斉にズバッと攻める。そうすりゃ、伏兵だろうが混乱して負ける。」
姫発(キラキラ目で)「……お姉様、やっぱり凄いです…!」
呂尚(ふっと優しい笑みで)「当然でしょ? 兵法を語らせたら、アタシが最強なんだから♡」
太史編「金と鼓──それは軍の呼吸」
古来、戦場では「金(鐘)」と「鼓(太鼓)」を合図に、進軍・停止・戦闘・撤退などを制御しました。本篇は、そんな“軍の生命線”ともいえる金鼓の重要性を通じて、夜襲時の防衛・反撃・追撃の基本構造を説いています。
本篇では夜襲への警戒と対処、そして敵の偽装撤退への追撃戦術が中心テーマ。姫発の「素直な学び」と、呂尚の「戦術的冷徹さ」が対比されつつも信頼で結ばれる構成。兵法としては伏兵対策と、追撃時の冷静さが肝。
太史編「壘虚(るいきょ)ってなに? “壘”は“とりで”、“陣地”って意味だよ〜。“虚”は“カラ”のこと! つまり“敵の陣が空っぽかどうか、どう見抜くか”ってお話なんだ!」
まとめ