炎暑の午後。風が乾いた大地を撫で、草木は音もなく揺れていた――。
武王(姫発)(少し不安げに)「お姉様……もし、敵の領地深くまで進軍して、周囲が深い草むらに囲まれていたら……。わたくしたち、行軍の疲れで人馬ともに休みたくなるかと思いますの……」
呂尚(太公望)(真剣な表情で)「そういうときこそ、最大の危機が潜んでるのよ、姫発ちゃん。特に──風が強くて乾燥してる日はね。敵が火を放てば、一瞬で地獄と化すわ」
武王(はっとして)「火を、放たれたら……!」
呂尚「うん。敵が上風から火を放ってきて、後方には精鋭部隊を伏せてるとする。火に気を取られて動揺したところへ、後ろからドーン。三軍は大混乱よ」
武王(小さく手を握って)「で、でも……どうすれば……!?」
呂尚(キリッと指を立てて)「落ち着いて、こうするの! すぐに《雲梯》や《飛楼》を立てて、高所から前後左右を監視。もし火が上がったら――」
武王(ごくり)「わたくしたちも……火をつける……のですか?」
呂尚「正解♡ 敵より先に、こちらの前方と後方に火を放つの。草を燃やして、あえて《黒地=焼け跡》を作って、そこに移動して布陣!」
武王「まあ……燃えた場所は、もう火が来ませんものね!」
呂尚「そう。焼け跡は火が進まないし、煙で視界も遮れる。敵が来ようとしても、こっちが先にポジション取ってるってわけ。さらに、強弩兵で左右を守って、残りの草地も焼いておけば、もう火攻めは無力よ♡」
武王(息を詰めて)「お姉様……火で囲まれ、敵の大軍が迫ってきたら……!? もう、どうしようもないのでは……?」
呂尚(静かに首を振って)「まだ勝機はあるわ。こういうときは、《四武衝陣》を組んで備えるの!」
武王「し、四武衝……?」
呂尚「兵を四方に分けて、中央を守る陣形よ。しかも、強弩兵は左右に集中配置。火と煙で囲まれても、敵が入り込めないよう守りを固めるの。……ただし、この策は《勝てはしない》けど、《敗けもしない》ってやつ。“無事に退く”ことを第一に考えた陣形よ」
武王(神妙に)「……負けないということも、大切な勝利ですのね」
呂尚「そういうこと♡ 火計には機を見て動く勇気と、退く覚悟の両方がいるの。姫発ちゃんも、ちゃんと覚えておいてね」
武王「火に囲まれても、まだ……できることはあるのですね。わたくし……もう“火”は怖くありませんっ!」
呂尚「ふふっ、いい心構えね♡ 火は恐れるものじゃなくて、利用するものよ。──でも、その火を操れるのは、“冷静な心”を持った王だけ、ってことも忘れないでね?」
武王「はいっ! わたくし、ぜったいに冷静で、強くて、民を守れる王になりますっ!」
太史編「“火戦篇”は、火を使った奇襲にどう備えるかってお話だよ〜! 風向き・地形・草木の状態って、ぜんぶ火計のカギなの!」