ああ、陛下、わたくし韓非姫は、韓の国のお姫様として、再びこの御前に参上いたしますわ。愛する臣下の扱いについて、心を込めてお伝えしますのよ。陛下のような賢明なお方なら、きっとわたくしの言葉を優しく受け止めてくださるはずですわね。どうか、わたくしの小さな忠告を、温かいお心でお聞きくださいませ。
陛下、わたくし、申し上げますわ。臣下をあまりに可愛がると、君主ご自身の身が危うくなりますわ! 臣下の地位が高すぎれば、陛下の座を奪おうと企むんですのよ。側室を寵愛しすぎれば、正妻の子が危険にさらされ、兄弟が逆らえば国そのものが傾きますわ。小さな国でも、準備を怠れば、百乗の兵を持つ臣下が民を奪い、国をひっくり返しますわ。大きな国でも、油断すれば、千乗の力を持つ家臣が権力を握り、国を滅ぼしますわ。寵臣はまるで懐に忍び寄る毒蛇ですわよ! 陛下、どうかご用心くださいませ! ああ、わたくし、陛下のお身を思うと、心配でなりませんわ…。
だから、陛下、君主が目を離せば、奸臣が勢力を広げますわ。臣下が力を持ちすぎると、陛下の権威は消えてしまいますのよ。諸侯が強大になれば、天子の地位が揺らぎ、臣下が金や兵を握れば、君主は敗れますわ。将軍や宰相が私欲で動き、陛下を操れば、国は滅びますわ。殷の紂王が滅び、周が衰えたのは、諸侯が力を持ちすぎたから。晋が三つに分裂し、斉が簒奪されたのも、臣下が富みすぎたから。燕や宋の君主が殺されたのも、同じ理由ですわ。陛下、奸臣は油断につけ込むんですのよ。これが国を滅ぼす道ですわ! わたくし、そんな恐ろしいことを思うと、胸が痛みますわ…。
陛下、この世で最も尊いものは何でしょう? それは君主の命ですわ。最も高いものは君位、最も強いものは陛下の威厳と権力ですわ。この四つの宝は、外に求めるものじゃありません。人に頼るものでもありませんわ。陛下が自分で守り、賢く使えば、手に入るんですのよ。なのに、陛下がこの宝を活かせなかったらどうなるでしょう? 奸臣に奪われてしまいますわ! 陛下、権力を握りきれなければ、臣下に取られて終わりですわ。戦国の君主は、これを肝に銘じるべきですわよ! ああ、わたくし、陛下の輝かしい宝をお守りしたいんですの…。
賢い君主は、臣下を法でビシッと縛りますわ。わたくし、申し上げますわ。臣下には法を守らせ、裏切りを防ぐ準備を怠りませんのよ。死罪は絶対に許さない、罰は必ず実行しますわ。もし死罪を許したり、罰を軽くしたりすれば、陛下の威厳は崩れますわ。国家は傾き、権力は臣下の手に落ちますのよ。陛下、法を徹底することが、国を守る鍵ですわ! わたくし、そんな鉄則を陛下にお伝えできて、心が晴れますわ。
だから、陛下、大臣の給料が多くても、城で威張らせてはいけませんわ。仲間が多くても、私兵を持たせるなんて論外ですわ。国内で私的な集まりを禁じ、軍では他国との裏取引を許しません。財産を私的に貸し出すのもダメですわ。臣下が外出するとき、たくさんの従者を連れて行くのも禁止。車に武器を隠すなんて、もってのほか! 緊急の書類を運ぶ以外で、武器を一つでも持っていたら、死罪ですわ。絶対に許しませんわよ! 陛下、どんな小さな隙も見逃さず、法を徹底して臣下を監視する。それが不測の事態を防ぎ、国を守る道ですわ! ああ、陛下の御業が永遠に輝きますように、心から祈っていますわ…。
ああ、陛下、わたくし韓非姫は、韓の国のお姫様として、またこの御前に参上いたしますわ。物を言うことの難しさを、心を込めてお伝えしますのよ。陛下のような賢明なお方なら、きっとわたくしの言葉を優しく受け止めてくださるはずですわね。どうか、わたくしの小さな悩みを、温かいお心でお聞きくださいませ。
わたくし、物を言うのが難しいなんて思ってませんわ。でも、なんて難しいんでしょう! 流れるように美しく話せば、「口だけね」とバカにされますわ。真面目で慎重に話せば、「つまらない」と笑われますのよ。たくさん例を挙げて説明すれば、「空っぽな話」と無視され、簡潔に核心を突けば、「攻撃的だ」と嫌われますわ。君主の心にズバッと切り込めば、「人を陥れる気?」と疑われ、壮大なビジョンを語れば、「大げさね」と相手にされません。日常の小さな話をすれば、「見識が狭い」と軽蔑されますわ。世俗に合わせれば、媚びてると思われ、変わった意見を言えば、ふざけてると誤解されますのよ。華やかに話せば軽薄だと言われ、素朴に話せば野暮だとバカにされますわ。昔の詩や書を引用すれば、ただの暗記屋だと笑われます。どんな言葉を選んでも、必ずケチがつくんですのよ! 陛下、わたくし、頭を抱えてしまいますわ。ああ、こんなに難しいなんて、涙が出てきそうですわ…。
正しい法を説いても、聞いてもらえませんわ。道理を尽くしても、使ってもらえませんのよ。陛下がわたくしの言葉を信じてくださらなければ、軽い場合は「悪口を言ってる」と非難され、ひどい場合は命を落としてしまいますわ。陛下、正しい進言ほど危険なんですのよ。だって、君主の心に逆らうんですもの。ああ、わたくし、そんな恐怖を思うと、心臓がドキドキしますわ…。
歴史を見れば、賢者たちの悲惨な末路が山ほどありますわ。伍子胥は呉王に忠誠を尽くし、巧みな策を献じたのに、殺されましたのよ。孔子は仁義を説いて天下を巡りましたけど、匡の地で囲まれ、命の危機に瀕しましたわ。管仲は賢者なのに、魯で縛られたんですのよ。この三人は賢者中の賢者ですわ! でも、君主がバカだと、賢さは仇になりますわ。昔、商の湯王は聖人、伊尹は知者でしたけど、伊尹は湯王に認められるまで、何十回も進言して、料理人として仕えるハメになりましたわ。やっと親しくなって、ようやく重用されたんですのよ。陛下、最高の知者が最高の聖人に説いても、すぐには通じませんわ。ましてや、愚かな君主に賢者が話しても、聞いてもらえるわけありませんわよね? わたくし、そんな歴史を思うと、胸が痛みますわ…。
至智が至聖に説いても、すぐには受け入れられませんわ。伊尹が湯王にそうだったように。ましてや、賢者が愚かな君主に説けば、絶対に聞いてもらえませんわ。文王は紂王に進言して牢に入れられ、翼侯は焼かれ、鬼侯は干し肉に、比干は心臓を抉られ、梅伯は肉酱にされましたのよ。管仲は縛られ、曹羈は陳に逃げ、伯里子は乞食に、傅説は奴隷として売られましたわ。孫臏は魏で足を切られ、呉起は楚でバラバラに。公叔痤は才能を推薦したのに混乱者と呼ばれ、商鞅は秦に逃げ、関龍逢は斬られ、苌弘は腹を裂かれ、尹子は牢に、司馬子期は川に浮かび、田明はバラバラに、宓子賤や西門豹は戦わず殺され、董安于は市中で晒され、宰予は田常の謀反で死に、范雎は魏で肋骨を折られましたわ。陛下、これだけの賢者や忠臣が、愚かな君主に殺されたんですのよ。なぜですって? 真実を言うのが、君主の逆鱗に触れるからですわ。ああ、こんな悲劇を思うと、わたくし、涙が止まりませんわ…。
この十数人、みんな仁賢で忠良、道術を持った素晴らしい人たちでしたわ。なのに、愚かで混乱した君主に遇って死にましたのよ。賢聖でさえ、死亡や屈辱を逃れられないのはなぜ? 愚かな君主に真実を説くのが難しいからですわ。君子は少なくありませんわよ。真実の言葉は耳に痛く、心に突き刺さりますわ。賢聖じゃなきゃ受け入れられません。陛下、わたくし、命をかけて申し上げますわ。真実を聞くのは辛いかもしれないけど、それが国を救う道ですわ。どうか、じっくりお考えくださいませ! ああ、陛下の賢明なお心に、わたくしの言葉が届きますように、心から祈っていますわ…。
ああ、陛下、わたくし韓非姫は、韓の国のお姫様として、再びこの御前に参上いたしますわ。韓の存亡を賭けて、陛下に心からの進言を申し上げますのよ。どうか、わたくしの小さな願いを、優しいお心でお聞き届けくださいませ。天下を統一なさる陛下のため、韓がどれほど大切か、可愛らしくお伝えしますわね。
わたくし、韓は三十年以上も秦に忠義を尽くして参りましたわ。外では盾となって敵を防ぎ、内では陛下の御座を支える座布団のようでございますのよ。秦が鋭い軍で他国を攻めるとき、韓はいつも後ろで支え、恨みを一身に引き受けてきましたわ。それなのに、功は秦にだけ。韓はまるで秦の郡県のよう、貢物を欠かさず忠誠を尽くしてきましたわ。陛下、どうかこの忠義をお忘れにならないでくださいませ。ああ、わたくし、韓の誠実さを思うと、胸が熱くなりますわ!
陛下、わたくし、耳を疑いましたわ! 秦の重臣たちが「韓を攻めましょう」なんて囁いているんですって? そんなの、バカげてますわ! 今、趙が諸国の兵を集めて合縦を企て、秦を狙っておりますのよ。「秦を弱らせなきゃ、みんな滅ぼされる!」なんて叫んでるんですわ。こんなときに忠実な韓を攻めるなんて、趙の思うツボですわ! 天下は「趙の策が正しい」と思ってしまうでしょう。陛下、韓を攻めれば味方が減るだけですわよ、どうかお考えくださいませ! わたくし、そんな愚かな策を聞くと、心が痛みますの…。
韓は小さな国ですわ。でも、四方から攻められても、君主は恥をかき、臣下は苦しみながら、みんなで力を合わせて頑張ってきましたのよ。城を固め、食糧を蓄え、強い敵に備えてきましたわ。韓を攻めるなんて簡単じゃありません。一年で滅ぼすなんて無理ですわ。一つの城を取って退却すれば、秦の力が弱く見えますわ。天下の国々が「秦も大したことない」って、秦軍を叩き潰しに来ますわよ。陛下、韓を攻めるのは百害あって一利なしですわ! ああ、わたくし、韓の小さな努力を思うと、涙が出てきそうですわ。
もし韓が秦を裏切ったら、魏がすぐ乗ってきますわ。趙は斉を後ろ盾に、合縦をガッチリ固めて秦に挑むでしょう。韓と魏が趙に力を貸し、斉が加われば、秦は大ピンチですわ! 趙の思うまま、秦の災いですわよ。趙を攻めても勝てず、韓を攻めても落とせなかったら、精鋭の兵は野戦で疲れ、補給部隊は内陸で消耗しますわ。弱った軍で趙や斉と戦うなんて、韓を滅ぼす目的からかけ離れてますわ。陛下、こんな作戦じゃ秦は天下の攻撃対象になるだけですわ! わたくし、陛下のお立場を思うと、心が張り裂けそうですわ…。
わたくし、愚かな策を申し上げますわ。まず、楚に使者を送り、重い賄賂で重臣を買収し、趙が秦を騙してることをバラしますわ。魏には人質を送って安心させ、韓と一緒に趙を攻めますのよ。趙が斉と組んでも、秦の力なら恐れることありませんわ。趙を倒せば、韓は文書一枚で従いますわ。楚と魏も自然と頭を下げますわよ。これなら、一度の戦で趙と斉を弱らせ、韓を味え、楚と魏を味方にできますわ。兵は凶器、使うなら慎重に、賢く使わなきゃですわ。陛下、この策、いかがでしょう? わたくし、陛下の御業をお手伝いできたら、幸せですわ!
秦が趙と戦い、斉が加勢してくるのに、韓を裏切り、楚や魏の心をつかめてないなんて、危険すぎますわ! 一度の戦で負ければ、大禍を招きますわよ。計略は国の命運を決めます、慎重に考えなきゃダメですわ。韓と秦の強弱は今年が勝負。趙は諸国と長年、密かに謀を練ってきましたわ。秦が弱さを見せれば、諸国は一気に狙ってきますわ。陛下、韓を敵に回すなんて、天下に隙を見せるだけですわ。どうか熟慮してくださいませ! ああ、わたくし、陛下の御心を思うと、ドキドキしてしまいますわ。
陛下、韓非の進言を聞いた李斯が、猛反発してきましたわ。「韓非の言うことは信用できません!」ですって。「韓は秦の心臓に刺さった棘ですわ。平気な顔してても、湿った場所にいれば病が悪化、急に動けば痛みが走りますわ。韓は秦に仕えてるけど、いつも従順とは限りません。緊急事態になれば、裏切るかもしれないんですのよ」と。陛下、李斯の疑いはもっともでしょうか? わたくし、心配ですわ。ああ、そんな疑いをかけられるなんて、悲しいですわ…。
李斯はさらに申しますわ。「韓非は韓を守るために来たんです。自分の地位を高めるための策略ですわ。巧みな言葉で秦を騙し、韓の利益を守ろうとしてるんですのよ。秦と韓が仲良くすれば、韓非の地位は上がりません。これは彼の都合のいい計略ですわ」と。陛下、わたくしの心は純粋ですわ! 韓のためではなく、秦の天下のため、命をかけて申し上げておりますわ。どうか信じてくださいませ! わたくし、そんな疑いを晴らしたいんですのよ。
李斯が申しますわ。「韓非の言葉は華やかで、弁舌は見事ですけど、陛下を惑わす危険がありますわ。わたくしの策はこうです。秦は兵を動かし、どこを攻めるか明かさない。そうすれば、韓の王はビビって秦に仕えますわ。わたくし自ら韓に行き、韓王を秦に呼びつけ、身柄を抑えます。韓の臣下を呼び寄せて取引すれば、韓の土地をガッツリ奪えますわ」と。陛下、こんな強引な策、わたくしには賛同できませんわ。韓を脅すより、味方にすべきですわよ! ああ、わたくし、穏やかな道を選んでほしいんですわ。
李斯が韓王に上書しましたわ。「昔、秦と韓は力を合わせて誰も手出しできない関係でしたわ。それが何世代も続いたんですのよ。五国が韓を攻めたとき、秦が助けましたわ。韓は小さな国なのに、諸国と肩を並べられたのは、秦に忠誠を尽くしてきたから。陛下、韓王にこの歴史を思い出させてくださいませ。秦と韓は運命共同体ですわ!」と。わたくしも思いますわ、韓は秦の大切な味方ですわよ。ああ、昔の絆を思うと、心が温かくなりますわ。
李斯が続けますわ。「今、趙が兵を集めて秦を狙い、韓に道を借りようとしてますわ。その矛先はまず韓に向かい、次が秦ですわよ。唇がなくなれば歯が寒い、秦と韓は運命共同体ですわ。魏も韓を攻めようとしてるのに、韓王はわたくしに会おうとしない。昔の奸臣の計略を真似て、韓はまた土地を失う危険がありますわ」と。陛下、韓王を脅すなんて、わたくし、賛同できませんわ。韓を味方につけるべきですわ! わたくし、そんな強硬策より、優しい道を信じますわ。
李斯が最後通告ですわ。「わたくしを韓で殺しても、秦は強くならず、わたくしの策を聞かなければ禍が起こりますわ。秦軍が動き、韓の社稷は危うくなりますわ。わたくしが韓で命を落としても、愚忠の策を聞いてもらえませんわ。国境が荒れ、都が囲まれ、戦鼓が鳴るころに後悔しても遅いんですのよ」と。陛下、わたくし、李斯の脅しより、味方にすべきと信じますわ。どうか、わたくしの策をお選びくださいませ! ああ、陛下の賢明なお判断を、心からお待ちしておりますわ…。
ああ、陛下、わたくし韓非姫は、韓の国のお姫様として、この乱れた世を心から憂いておりますわ。秦の始皇帝陛下の御前に参上し、命を賭けてお話を申し上げますのよ。どうか、わたくしの小さな声に耳を傾けてくださいますませ。天下統一の道を、わたくしなりに可愛らしく、でも真剣に語らせていただきますわね。
わたくし、聞きましたわ。知らないことを申すのは愚かですのよ。知っていながら黙っているのは、陛下への不忠ですわ。不忠は死罪、間違ったことを申しても死罪ですわ。それでも、わたくし、命をかけて見たこと聞いたことを全てお話し申し上げますの。陛下、どうぞお裁きくださいませ。ああ、わたくしの心臓がドキドキしますわ…でも、陛下のためなら、どんな罰も甘んじて受けますのよ!
わたくし、伺いましたわ。燕や魏、楚、斉、韓が手を組んで、合縦なんてものを作り、秦に立ち向かおうとしているんですって? ふふ、笑っちゃいますわ! 世の中には三つの滅び方があるんですのよ。乱れた国が整った国を攻めたり、邪悪な国が正しい国を攻めたり、道理に逆らう国が天の理に従う国を攻めたり。そんなの、全部滅亡への道ですわ。陛下、この策略、滑稽じゃありませんこと? わたくし、陛下の御前でこんなお話を申し上げて、失礼じゃありませんかしら? でも、真実ですのよ!
今の六国、みっともないですわ。国庫はスカスカ、倉庫はガラガラ。それなのに、国民を総動員して何百万もの軍を動かすんですって。将軍はカッコつけて「死ぬまで戦う!」なんて叫ぶけど、千人にも満たないんですのよ。戦場では、剣が目の前に、処罰の斧が後ろに迫っても、逃げ出すばかり。兵士が悪いんじゃありませんわ。君主がダメなんですのよ。賞を約束しても出さない、罰を宣言しても実行しない。約束が守られないから、誰も命をかけませんわ。陛下、こんな国が秦に敵うわけありませんわよね? ああ、わたくし、六国の愚かさを思うと、ため息が出てしまいますわ。
秦は素晴らしいですわ! 法はビシッと決まっていて、賞と罰は絶対ですのよ。功績を上げた者は必ず褒められ、怠けた者は必ず罰せられます。秦の民は、普段は敵なんて見たことのない若者でも、戦場では足を踏み鳴らし、服を脱ぎ捨て、剣や炎に突っ込んで死ぬまで戦いますわ。なぜですって? 命をかける価値があるからですわ! 一人が十人を倒し、十人で百人を、百人で千人を、千人で万人を倒せる。そんな万人の軍があれば、天下は秦のものですわ。秦の領土は数千里、軍は百万を超え、法は厳格、土地は有利。こんな国を敵に回して、勝てる国なんてありませんわ。陛下、秦なら天下を簡単に手に入れられますわよ。ああ、わたくし、秦の強さを思うと、心がわくわくしますの!
でも、陛下、なぜ秦はまだ天下を統一できていないんでしょう? 軍は疲れ、民は困窮し、倉庫は空っぽ、田畑は荒れ、近隣の国は従いませんわ。覇王の名も得られていません。理由は簡単ですわ。秦の家臣が本気で忠誠を尽くしていないからですのよ。わたくし、はっきり申し上げますわ。陛下、このままではいけませんわ。ああ、わたくし、陛下のお立場を思うと、胸が痛みますの…どうか、わたくしの言葉を御心に留めてくださいませ。
かつて秦は楚をボロボロに破り、都を落とし、洞庭湖や江南を奪いましたわ。楚の君臣は逃げ出し、陳の城に隠れたんですのよ。あの時、追い討ちをかければ、楚は滅び、民と土地は秦のものになりましたわ。斉と燕を弱らせ、韓、魏、趙を圧倒して、一気に覇王の名を手にできたはずですのに! なのに、秦の家臣は軍を引いて楚と和解してしまいましたわ。陛下、これが秦が覇王になるチャンスを逃した一回目ですわ。もったいないですわよ! わたくし、そんな過ちを思うと、涙が出てきそうですわ。
また、六国が華陽で合縦を組んだとき、陛下はこれを破り、魏の都・大梁を包囲しましたわ。あと少しで大梁を落とせば、魏は滅び、楚と趙の同盟は崩れ、趙は危うくなり、楚は迷ったはずですわ。なのに、家臣は攻めきれず、軍を引いて魏と和解してしまいましたのよ。陛下、これが二回目の失敗ですわ。惜しすぎますわ! ああ、わたくし、陛下の御業がこんなにも阻まれているなんて、悔しくてなりませんわ。
趙は中央の国、いろんな民が住む場所ですけど、統制が取れていませんわ。号令は乱れ、賞罰は信用されず、地形も不便。民は力を尽くしません。まさに亡国の形ですわよ。それなのに、趙は長平で韓の上党を争い、陛下は武安を奪いました。あの時、趙は君臣の信頼がなく、邯鄲は守れなかったはずですわ。邯鄲を落とし、代や上党を攻めれば、戦わずに多くの土地が手に入りましたのに! 趙が滅べば、韓も終わり、楚と魏は孤立し、斉と燕も弱りますわ。なのに、家臣は軍を引いて趙と和解しましたのよ。陛下、これが三回目の失敗ですわ。悔しいですわ! わたくし、こんなにもチャンスを逃すなんて、信じられませんのよ。
陛下の聡明さと秦の軍の強さをもってしても、覇王の業を捨て、土地を得られず、亡国に騙されてしまうなんて、なんて家臣の無能なことでしょう! 趙は滅びるはずなのに滅びず、秦は覇者になるはずなのに覇せず、天下は秦の家臣のダメさをしっかり見抜きましたわ。邯鄲を攻めても落とせず、武器を捨てて逃げ帰り、別の戦いでも勝てず、疲弊して退却。天下は秦の限界を三度も見ましたわ。内では家臣の策がダメで、外では軍が疲れ果てています。今、秦は兵も民も疲れ、蓄えはなく、田畑は荒れ、倉庫は空っぽ。外では六国が固く結託して秦を狙っていますわ。陛下、このままじゃ合縦を崩すのは難しいですわよ。どうかお考えくださいませ! ああ、わたくし、陛下のお苦しみを思うと、心が張り裂けそうですわ。
わたくし、こう聞きましたわ。「戦々兢々、日々慎重に進めば、天下は手に入りますわ」って。どうしてそう思うかって? 昔、殷の紂王は百万の軍を持ち、淇水や洹水を飲み干す勢いだったのに、周の武王はたった三千の兵で一日で都を落とし、紂王を捕らえましたわ。誰も紂王を惜しまなかった。なぜですの? 力を尽くしたからですわ。また、智伯が三国の軍で趙の襄子を晋陽で攻め、水攻めで城を落としかけたのに、襄子は家臣の張孟談を送り、韓と魏を寝返らせて智伯を倒しましたわ。陛下、秦には数千里の領土と百万の軍、厳格な法と有利な土地があります。力を尽くせば、天下は必ず秦のものですわ! わたくし、陛下の御業が輝くのを、心から信じておりますのよ。
秦には数千里の領土、百万の軍、厳格な法、有利な土地がありますわ。天下に並ぶものはありません。これで戦えば、天下は秦のものですわ! わたくし、命をかけて陛下に申し上げます。六国の合縦を壊し、趙を落とし、韓を滅ぼし、楚と魏を従え、斉と燕を味方につけ、覇王の名を成し、四方の国を朝拜させますわ。もしわたくしの策が失敗したら、どうぞわたくしを斬って国の見せしめにしてくださいませ。陛下、わたくしの忠義、受け止めてくださいまし! ああ、わたくし、この進言で陛下のお役に立てるなら、どんな運命も幸せですわ…。
姫発(静かに呟いて)「お姉様……いままで騎兵や戦車のことをたくさん教えていただきましたけれど……では、“歩兵”の戦いは、どうなっておりますの……?」
呂尚(静かに微笑んで)「ふふ……ついに来たわね、姫発ちゃん。歩兵こそ、軍の礎──最後に語るにふさわしい者たちよ」
姫発「礎……それはつまり、いちばん“地に近い”兵ということですの?」
呂尚「そう。“地に足がついている”ということは、動きが遅いぶん、崩れたら全体が壊れるってこと。だから歩兵は、いちばん堅く、いちばん備えていなきゃダメ」
姫発(こくりと頷き)「では、お姉様……もし歩兵が、車や騎兵と戦わねばならぬ時は……どうすればよろしいのでしょうか……?」
呂尚(少しだけ声を鋭くして)「そのときこそ、“地形”を使うの。丘陵や険阻、つまり高低差や障害物を利用して、長兵・強弩を前に、短兵・弱弩を後ろに並べ、交代しながら戦う──それが基本よ」
姫発「なるほど……交代しつつ、地に拠って耐えるのですね……。ですが、お姉様──」
呂尚「──ええ。“もし、丘も無く、隠れる場所も無い平地だったら”って言いたいんでしょ?」
姫発「は……はいっ……! それで、戦車と騎兵に左右と前後を挟まれてしまったら……もう、逃げ場などございません……!」
呂尚(真剣に語りながらも微笑んで)「でもね、備えあれば、必ず活路はあるの。敵が来ると見れば、行馬(移動式の障壁)や木の蒺藜を敷き、牛馬の部隊を盾とし、名付けて“四武衝陣”を築くのよ」
姫発(息をのんで)「し、四武衝陣……それは、まるで……移動要塞のような……!」
呂尚「そう。さらに周囲には“命籠”という五尺四方の壕を掘り、敵の突撃を封じる。その中で、壊れた車を壁として使い、動かせば前後移動、止めれば陣地になる。左右には強弩兵を配置して防ぎ、そして──全軍一斉に、怯まず戦うのよ!」
姫発(拳を握りしめて)「……すごい……たとえ地の利が無くても、知と備えがあれば、歩兵は最後まで抗える……!」
呂尚(優しく見つめて)「ええ。歩兵はね、逃げ場がないからこそ、最も強くあらねばならない。そして、王がその“備え”を怠らなければ、どんな兵よりも堅固になる──」
姫発(涙ぐみながら微笑んで)「……わたくし、歩兵の皆様を……もっと誇りに思います……。お姉様、最後の教え……心に刻みますわ」
呂尚(そっと手を重ねて)「おつかれさま、姫発ちゃん。兵法はまだ続くけれど──この“犬韜”は、あなたの歩みの第一章として、とても美しかったわ♡」
太史編(ぴょこっ!)「こんにちは〜! 太史編だよっ✨ 今回は最終回! 《戦步篇》──つまり、“歩兵の戦い方”だよっ!」