春の陽気の中、文王は川辺で静かに呂尚に問いかけた。
文王「ねえ、呂尚。天下って、賑やかで栄えていると思ったら、いつのまにか衰えて、また立ち直る──盛衰がくるくると入れ替わるものだと思いませんこと?」
呂尚(髪を指にくるくるしながら)「んー、そりゃまあ、そうだけど……その原因が何かって話でしょ?」
文王「そうなの。たとえば──それって君主が賢かったり愚かだったりするからかしら? それとも、天命の変化というもの?」
呂尚(ふっと真顔に)「原因? ……それ、ハッキリ言えるわよ。君主がバカだったら、国は危くなるし、民は乱れる。でも逆に、賢くて聖なる君主なら、国は安定するし、民もちゃんと従うの。盛衰の原因ってね、“天”じゃなくて、“君主そのもの”にあるのよ。」
文王「まあ……それほどまでに、“君”の責任って重いのね。」
文王(そっと一歩近づいて)「では──昔の賢君って、どんな方々だったのかしら? 教えてくださる?」
呂尚(少し照れたようにそっぽを向き)「ふふん、そこを聞いてくれるのはさすが文王って感じ。じゃあ、語ってあげる──“帝尧(ていぎょう)”って知ってる?」
文王「もちろん、上古の大聖人ですわね。」
呂尚「彼が天下を治めたときってさ……金銀や宝石? 飾りにもしなかった。豪華な衣は着ない、珍しいモノには目もくれない、遊び道具なんて宝とも思わないし、きらびやかな音楽も耳に入れなかった。」
文王「まあ……まるで、欲を遠ざけたような──」
呂尚「そう。宮殿の壁も白く塗らないし、屋根や柱も削らずにそのまんま。庭の茅草だって伸び放題。でも、彼はそれでいいと思ってた。だってね、自分が贅沢しなきゃ、その分だけ民を苦しめずに済むから。」
文王「なんとお優しい御心……」
呂尚「寒さには鹿の皮でしのいで、着るのは粗布、食べるのは雑穀、野草で煮たおかず。民の苦労を邪魔しないように、無駄な労役も命じない。欲望を抑えて、心も静かに──それが“無為の統治”ってやつ。」
文王「まるで自然と一体になったような統治ですわね……」
呂尚「そして、真っ当に法を守る役人には高い地位を与えたし、清く民を愛する役人には厚い禄を授けた。孝行な人には敬意を示し、農業に励む者は褒めてねぎらった。善と悪をちゃんと見分けて、善良な家は門に表彰札を出したりね。偏りのない心と節度を重んじ、法律で邪悪を制したの。」
文王「まあ……それはまさに、まことの『公平』の姿ですわ!」
呂尚「しかもね、好き嫌いでごまかさない。嫌いな人でも、功績があればちゃんと褒める。好きな人でも、罪があれば容赦なく罰する。それが“賞罰の正しさ”──王道ってそういうものよ。」
文王「……まことに、尊く、そして難しい徳ですわね。」
呂尚「あとさ、“社会的に弱い人”っているじゃん? 家族がいない老人、夫に先立たれた女性、親を失った子、そういう人たちを手厚く支えてあげて、災害や不幸に見舞われた家庭にも救いの手を差し伸べてた。しかも、自分自身は超質素。税や労働も軽くてさ。だから、民は富んで幸せで、飢えも寒さもなくて──みんな彼を“太陽や月”みたいに慕ったの。」
文王(両手を胸にあて、感嘆の声を漏らす)「なんと、なんと偉大なるお方でしょう……これが、“賢君の徳”というものなのですね。」
ある春の日。文王がふと口にした。
文王 「渭水の北で狩りをしようと思うの──なんだか、良い予感がいたしますのよ。」
すると太史編が星を読み、静かに頷いた。
太史編 「はいっ! 渭水の北なら、すっごくいい兆しです! 龍でも虎でもない、王さまを助ける“とんでもない人”に出会えちゃいますっ!」
文王 「まぁ……とんでもない方、ですって?」
太史編 「天がお遣わしになる、師となるお方です! 姫昌さまを支えて、なんと三代の王にまで福を及ぼすんですの!」
文王 「本当にそこまでの御縁が?」
太史編 「はい、私の祖先──太史疇さまも、夏王・禹に仕えた時、同じ星の兆しを見たと記されています!」
そうして文王は、身を清め、三日間斎戒した後、狩りのための車に乗り、馬を駆って渭水の北岸へと赴いた。そこで出会ったのは──茅の生い茂る岸辺に座り、静かに釣り糸を垂らす、ひとりの女。
文王 (微笑しながら)「まあ、なんと風流な……そなた、釣りを楽しんでいらっしゃるの?」
呂尚 (そっぽを向きつつ、ツンとした口調で)「べっ、べつに楽しんでるとかじゃないし。……あたし、そういう“娯楽目的”でやってるわけじゃないんだけど?」
文王 「まぁ、では何かの比喩でして?」
呂尚 「……君子ってさ、志を遂げることに喜びを見い出すんだって聞いたことある? 小市民は好きなことをして満足するらしいけど。それと似てる感じ? あたしの釣りって。」
文王 「似ている……ですの?」
呂尚 「釣りってさ、実は“人の心を釣る”のと同じなのよ。釣りには三つの術があるの──“餌”で釣るって意味では、報酬(禄)で人を引き寄せる、命をかけて戦う者を金で招く、官職で忠義を呼び出す、全部“釣り”と同じ理屈。」
文王 「まぁ、それは……まるで人の運命を見透かすようなお言葉ですわ。」
呂尚 (気まずそうに、でも饒舌に)「だってさ、釣りって“結果を求める”行為でしょ? その過程には深い理があるの。聞きたい?」
文王 「ええ、ぜひ。わたくし、その“深い理”を心から望んでおりますのよ。」
呂尚 「じゃ、言っちゃうけど……水源が深ければ、水は途切れずに流れる。流れがあれば、魚は生きる。木の根が深ければ、枝葉が茂って実をつける──これ、自然の“情”ね。人も同じ。心が通じれば親しくなって、そこから一緒に物事が生まれる。言葉って、本心を飾る手段だけど──“真情”を伝えたときが、物事の最高潮なんだよ。」
文王 「真情、ですのね。」
呂尚 「そう。いまのあたしの話──本気のやつ、隠してない。……引いた?」
文王 「ふふ、いいえ。仁ある者はまっすぐな言葉をこそ好むもの。むしろ、そなたのその率直さに──惹かれておりますわ。」
呂尚 (ちょっとだけ目を逸らしながら)「……そ、そっか。じゃ、続けるけどさ──細い釣り糸に目立つ餌をつければ小魚がくる。中くらいの糸に香る餌で、中魚がくる。太い糸に豪華な餌をつければ、大魚が釣れるの。つまりね、餌で魚を釣れるなら、魚は殺せる。禄で人を釣れるなら、人は働いてくれる。家庭を基に国を得られるなら、国を手に入れられるし、国を基に天下を取れたら──天下も平定できるのよ。」
文王 「なんて……なんて深い知恵でしょう。続けてちょうだいな。」
呂尚 「土地が広くて、長く続いた国でも、人心がバラバラになれば滅ぶ。静かに準備して、内に徳があれば、その光は遠くへ届く──聖人の徳ってのはね、静かに、でも確実に人の心を引きつける。表に出ない魅力が、人を動かすんだよ。」
文王 「まるで、そなたのように……」
呂尚 (小声で)「そ、そーいうこと言わないで……恥ずい。」
文王 「では、教えていただけますか? “仁・徳・義・道”とは──」
呂尚 (ちょっとデレながら)「仁はね、利益を独占しないでみんなに分けること。そうすれば、天下の人が“この人についていこう”って思う。徳は、人を死から救って、困ってる人を助けて、病や苦難から救い出す力。義は、喜びも怒りも一緒に分かち合える仲間を作る力。道は……天下を良くして、みんなを幸せにする王道ってやつ!」
文王 (静かにうなずき、目を閉じる)「まことに……まことに見事なお考えですわ。わたくし、そなたに師になっていただきたい。一緒に、天下を導く旅に出てはくれませんか?」
呂尚 (照れて視線を外しつつ)「んもー……またそうやって……でもまぁ、あたしがついててあげないと、天下なんて無理だし? いいよ、乗ってあげる。その旅──一緒にね!」
人を動かすには「お金・名誉・覚悟」の三つが大事って意味! まるで釣り竿と餌を使い分けるみたいに、ちゃんと相手を見て使うのがポイントなのっ!
ここでの「情」は“本質”や“自然の理”のこと。人の気持ちとか、道理にかなった本心のことなんだよ!
めっちゃ大事! ごまかさない気持ち、まっすぐな言葉、それが人の心を動かすの。表面だけじゃダメなんだよ!
報酬のレベルと人材の質の関係だよ。小さな報酬で小さな働き手、大きな報酬で有能な人を引きつける──ってこと!
王さまのものじゃなくて、みんなのもの! 利益をみんなで分ければ天下はまとまるけど、独り占めすると崩れちゃう!
本当にすごい人は、黙っててもみんながついてくるの。静かで優しい光みたいなものなんだよ〜!
「読んで萌えて、学んで深まる」、知と心の旅へようこそ!
「盈虚(えいきょ)」ってなに?
「盈」は満ちる、「虚」は欠けるの意味だよ〜。国が盛り上がる時と、衰える時のこと! この回は、それがなぜ起きるかを教えてくれるお話なの!
「天命」って関係あるの?
じつは違うの! 国が良くなるか悪くなるかは、天のせいじゃなくて、君主の“中身”にあるんだって!
「帝尧(ていぎょう)」ってどんな人?
金銀やオシャレも興味なし! 超質素で、自分をぜんぜん飾らない偉い人。民のためにぜーんぶ我慢できる、すっごい聖人なんだよ!
「無為の統治」って?
自分が余計なことをしないで、民が自然とよくなるのを助ける方法だよ〜! 命令よりも、信頼とか環境を整える方が大事ってこと!
「鳏・寡・孤・独」ってなに?
みんな“助けが必要な人”って意味だよ!
本文ではわかりやすく説明してたけど、原文ではこの漢字だけで表してたんだよ〜!
「賞罰の公正」って大事?
めっちゃ大事! 好き嫌いで決めるのはダメ。功績があるなら嫌いでも褒める、罪があるなら好きでも罰する──それが“信じられる国”を作るコツなの!
「民の愛」って?
帝尧のような王様はね、民にとっては“太陽”や“お月さま”みたいな存在になるの。遠くからでも、みんながその光を慕って集まってくるんだよ!