武王(姫発)「お姉様……。もし、もしも……我が軍が敵国の奥深くに進軍して、そして川を挟んで敵とにらみ合う状況になったら、どうすればよろしいのでしょうか? 敵軍は豊かで兵力も多く、我が方は貧しく少ない……。渡河して攻め込もうにも前に進めず、長期戦に持ち込もうにも糧食が底を尽きてしまいます。しかも……この地は塩気の強い荒れ地で、まわりに村も森もなく、牛馬に草を与える場所もなくて……三軍ともに、掠奪も放牧もできないのでございますの……。このようなとき、わたくし……どうすれば……?」
武王の頬にはうっすらと疲れの影。指先で地図をなぞりながら、呂尚の袖をきゅっと引いた。
呂尚(太公望)(静かに頷いて)「ふむ……そーゆー状況なら、そもそも戦う以前の問題って感じ? 三軍は戦の備えができてない、牛馬も餌が無くてヘロヘロ、兵士たちもお腹ペコペコってヤバくない? そしたらさ――もう選択肢はひとつ。敵を騙して、さっさと撤退。それが最善策なのよ。そのうえで、追撃されないように伏兵もちゃんと置くこと!」
武王「あっ……に、逃げるのですか……?」
呂尚「うん、ここで粘っても全滅コース。てか、そんな土地に居座ってどーすんの。騙し討ちと伏兵は兵法の華よ? アンタにはまだ早いかもだけど♪」
武王(首をかしげながらも頷いて)「では……もし、敵が騙されてくれませんでしたら? 我が軍の兵たちは混乱して、敵は前後から襲ってくる……三軍は逃げ惑い、陣形も崩壊してしまいます……」
呂尚「やれやれ……それ、想定済みよ♪ 敵を惑わすには、金銀財宝で釣る! これ鉄則。それも――敵の使者を買収して、情報を誘導するのがミソってわけ。しかもね、やるなら精密に、バレずに、マジで繊細にやんないと逆効果だから、そこは慎重にね?」
武王(息を呑み、唇を噛む)「それでも、敵がこちらの伏兵に気づき……本軍を動かさず、わずかの部隊で渡河して攻めてきたら……? その一部隊の動きに、我が軍は動揺して、三軍みな恐れおののくかもしれません……」
呂尚(眼差しは真剣そのものに)「OK、それも読んでる。まずは、我が軍を“四武衝陣(よんぶしょうじん)”に配置して、戦いやすい地形を押さえる! そして、敵が全軍渡りきるのを待って、そこから伏兵発動! 後方から襲撃、左右からは強弩(つよゆみ)でバッサバッサ射かける。――もうそれ、勝ちパターン入ったってコトよ☆」
武王「そ、そんな陣形が……」
呂尚「さらによ。戦車と騎兵を“鳥雲の陣”に配置して、前後警戒バッチリにしとくの。敵が小部隊との交戦に気を取られてる隙に、伏兵が本軍の後ろを襲う。鳥雲の陣で左右からガンガン攻める……はい、将軍逃走コース確定ッ!」
武王(瞳が輝いて)「“鳥雲の陣”とは……?」
呂尚(笑って)「あたしの命名だけど、カッコよくない? 鳥が散って、雲が集う――つまり、散開して機動し、集まって殲滅! 兵の配置も自在に変化させる。これぞ“奇”の用法ってやつよ!」
武王「ああ……なんて麗しき兵法の機微……!」
呂尚(ウィンクをひとつ)「今のアンタなら、理解できるって思ってたわ♪」
太史編「鳥雲澤兵篇は、沼地や河川地帯での対敵戦術に特化した内容です。敵が豊かで兵も多く、味方が貧しく劣勢な時、どう生き延びるか?」
まとめ