武王(姫発)「お姉様ぁ、今日は音楽のお話なんて……まるで雅楽の授業のようですわねっ」
呂尚「ふふ、たしかに“律章”というと、王宮の音楽に思えるかもしれないけれど──兵法における“五音”は、それとは違う側面を持っているの」
武王(首をかしげて)「ちがう……のですか?」
呂尚「そう。“五音”とはすなわち──宮・商・角・徴・羽。これは天地自然の“気のゆらぎ”を五つに分けたもの。そしてこのゆらぎは、戦場にもはっきりと現れるのよ」
武王「まぁ……音のゆらぎが、戦の行方を……?」
呂尚(頷いて)「その通り。宮は静寂、商は鉄の響き、角は鼓のうなり、徴は火のきらめき、羽は人の声。これらが、五行(金・木・水・火・土)と響き合って、戦の“兆し”を告げてくれるの」
呂尚「たとえば──晴れた夜半、雲も風もない静けさの中で、軽騎兵を敵陣の九百歩手前まで遣わせるの。そして“律管”を構え、敵に向かって気を送るのよ」
武王(きらきらした目で)「律管って……ほら貝のようなものでしょうか?」
呂尚「もっと繊細よ。音を“聴く”ための管。そこに微かに返ってくる音によって、敵陣の気配がわかるの」
武王「音が返ってくるなんて……」
呂尚「そう。もし鼓のような振動が響けば“角”──つまり、西から攻めるべきと知れる。“火の揺らめき”が返れば“徴”──北からが良い。“兵器のぶつかる音”なら“商”──南から。“人の怒声”が羽、中央から。そして音なき静寂、これが“宮”──東こそ勝機」
武王(思わず胸に手を当て)「まるで……五音と五行が導いてくださるようですわ」
呂尚「その通りよ。そして、それぞれの音色が示す方向には、青龍・白虎・朱雀・玄武・勾陳──五神の加護がある」
武王「でも……そんな繊細な音、敵に気づかれてしまいませんの?」
呂尚(微笑んで)「だからこそ、音が大切なの。静寂の中の一音、鼓、火光、武器の響き、叫声……それらすべてが“気”を映す鏡になる。耳を澄ませば、戦場は語りかけてくるのよ」
武王(うっとりと)「お姉様……まるで音楽のような兵法ですわね……♡」
呂尚「ふふ、それは姫発ちゃんが心を澄ませてるから感じられるのよ。音は心に応えてくれる。軍の気配、士気の高さ、将の冷静さ──すべて音に出るの」
この「五音篇」では、兵法における「音」の繊細な扱いを、まるで楽譜を読むように描きました。
呂尚は耳と心で聴く将。
姫発は無垢で澄んだ感性を持つ聴き手。
そして読者もまた、「音」を通じて戦の空気を感じていただけるよう工夫いたしました。
もしこの雰囲気をお気に召していただけましたら、次の篇もこのトーンで続けてまいりますわね✨
太史編(ちょこんと登場)「やっほ~! 今回はちょっと音楽っぽい兵法、“五音”のお話をまとめるよ♪」