夜。風がなく、幕営の火が静かにゆれていた。
武王(姫発)(そっと呂尚の袖を掴みながら)「お姉様……敵軍が、夜陰に紛れて左右から迫ってくるかもしれませんの……。わたくし……不安で、胸が苦しいですわ……」
呂尚(太公望)(その手を包み込み、にこりと微笑んで)「姫発ちゃん、大丈夫よ。あたしがついてるから♡」
呂尚(そっと指を立て)「今回みたいな敵──数が多くて、しかも夜に攻めてくるような手合いはね、“震寇(しんこう)”って言うの。動揺を起こすことを狙ってくる、卑怯なやり方だけど──対処法は、ちゃ〜んとあるの♡」
武王(じっと目を見つめて)「お姉様……教えてくださいませ……っ」
呂尚(真剣な表情に切り替えて)「こういう敵に守りを固めるのは、ナンセンス。“戦って勝つ”が唯一の道なの。だから、すぐに戦うための布陣を組むのよ──」
呂尚「まずは勇敢な兵を選抜。強弩を構えて、左右に戦車と騎兵を配置。前からバチッとぶつかって、同時に側面や後方も攻めるの。敵の外側を叩きつつ、中にも突っ込むのがポイント!」
武王(小さく拳を握りながら)「内と外から同時に攻めれば……敵は混乱しますわね……!」
呂尚「その通り! 兵士はパニック、指揮官はアワアワよ♡ 乱れた軍なんて、もうこっちの勝ち確定よ〜」
武王(小さく頷きながら)「でも……もし、わたくしたちの軍が逆に乱されたら……前も後ろも遮られて、連絡も途絶え、兵が逃げ出し……士気も尽きたら……?」
武王(声が震える)「…」
呂尚(そっと抱きしめて)「姫発ちゃん……そこまで想像できるなんて、アンタすごいわよ。でも、大丈夫──“その時の兵法”も、ちゃんとあるの」
呂尚「まず、全軍に命令を明確に伝える。それぞれ火炬(たいまつ)を持たせて、ふたりで一鼓(いっこ)を鳴らすの。これで敵の位置を特定できるし、自軍どうしも見失わない」
武王(ハッとして)「火と音で、連携を保つのですわね……!」
呂尚(頷いて)「そう。いざ攻撃のときには──合図を送って、一斉に火を消す。音も止める。これが合図。そこからが、本当の突撃よ♡」
呂尚「外の部隊と中の部隊がぴったり息を合わせて、全軍で突撃! この“一致した行動”が、乱れた敵に止めを刺すのよ♡」
武王(キラキラした目で)「お姉様……わたくし、もう迷いませんわ。たとえ敵が強くても、こんなにしっかり戦法があるのですもの……わたくし……守るだけでなく、勝つ戦いがしたいっ!」
呂尚(そっと頭を撫でて)「うん。それでこそ、あたしの王様♡」
漆黒の夜。月明かりすら雲に隠れ、重たげな空気が城のまわりを包みこむ。
武王(姫発)「お姉様……敵が突然、城下まで攻めてまいりましたの。牛馬は奪われ、民は虜にされ、兵たちは怯えております。守れば足りず、戦えば恐れあり──どうすれば、“固く守り、かつ勝つ”ことができますの?」
呂尚(太公望)(眉をひそめ、腕を組みながら)「それ、まさに“突兵”ってやつね。勢い任せに深く攻めてきて、補給も考えず暴れる敵──こういう奴らはね、一見強そうで、実はガバガバなのよ」
姫発「まぁっ……暴れているようで、じつは隙だらけ……?」
呂尚「うん、まず牛馬にエサがない、兵も食糧なし──それで無理に突っ込んでくる。これ、長くは持たないわ。だから、離れた別軍に命じて、精鋭を選りすぐって後ろから急襲! そして、闇に紛れて挟撃! これが一番効くのよ」
姫発「夜のうちに……背後から……!(小さく手を握って)まるで、闇夜に光る刃のようですわ……♡」
呂尚「ふふっ、さらに──敵が部隊を分けて、こっちを牽制したり、牛馬だけ盗みに来たりしてもね、それって逆にチャンスなのよ」
姫発「えっ……どうしてですの?」
呂尚「戦う部隊と、物資狙いの部隊が分断されてたら、主力がまだ到着してないうちに──こっちは先に備えを固めて待ち構えられる。たとえば、城から四里離れた場所に陣を築く。旗と太鼓で威厳を見せつけつつ、裏では伏兵を配置。強弩兵は上から、門には突撃口──車も馬も、ぜんぶ配置完了!」
姫発「わたくし、そんな布陣、見たことありませんっ……! それなら、敵が迫ってきたときも……!」
呂尚「そう、軽装の部隊で応戦して、“あっやられた〜”って演技して、城まで退くの♡ でも本当は、城にはちゃんと守備と伏兵が準備済み。敵は“やった、城落ちる!”って油断して前のめり──その瞬間に、伏兵がガバッと出て、外からも中からも叩き潰すのよ」
姫発(きらきらした目で)「わたくし、それ……やってみたくなってまいりましたわ……っ!」
呂尚(くすっと笑って)「ふふ、これが“突戰”──勢いに飲まれた敵の盲点を突く、逆襲の美学よ♡」
太史編「やっほ〜! 今日は《突戰篇(とつせんへん)》だよ〜!」
春の風が丘をなでる。ふたりは小高い山に登り、敵地を見下ろしていた。
武王(姫発)(手をかざして遠くを眺めつつ)「お姉様……あそこに見える敵の砦……本当に兵がいるのかしら? 何だか静かすぎて、妙な気がいたしますの」
呂尚(太公望)(くるりと髪をいじりながら)「姫発ちゃん、それ、超鋭いわよ♡ 実はね──敵の陣が“空っぽ”か、それとも“本当にいる”かって、ちゃんと見極めるコツがあるの」
武王「まあっ……! それを見抜けたら、戦の行方もまるで違いますわね!」
呂尚(キリッとした表情で)「いい? 兵法ってのはね、“高いところ”から全体を俯瞰するのが基本。まずは《登高望遠》──高所に登って敵をよく観察するの」
武王(頷きながら)「はいっ。視野を広く持つのが要なのですね!」
呂尚「たとえばさ、鼓の音も、鉦(かね)の音も一切しない。でもそのわりに、砦の上には鳥がいっぱい止まってて、ぜんぜん驚いてない──その時点で、ほぼ“カラ”確定♡」
武王(目を丸くして)「まぁっ……鼓も鳴らず、鳥も逃げず、埃も立たぬ……つまり、中に兵がいないということでございますのね!」
呂尚「そうそう♡ しかもね──敵が急に引いてすぐ戻ってきたとき? あれは“軍の運用がグダってる”サインなの。こういうとき、部隊はバラバラで乱れやすいのよ」
武王「ふむふむ……急に出て急に戻る──“慌ててる”時は、逆に狙い目ですわね?」
呂尚(ニヤリ)「その通り♡ そんな相手は、こちらが“少数”でも叩けばボロが出る。混乱してる軍に、整った軍で当たれば、勝つのは当然よね♡」
太史編「壘虚(るいきょ)ってなに? “壘”は“とりで”、“陣地”って意味だよ〜。“虚”は“カラ”のこと! つまり“敵の陣が空っぽかどうか、どう見抜くか”ってお話なんだ!」
炎暑の午後。風が乾いた大地を撫で、草木は音もなく揺れていた――。
武王(姫発)(少し不安げに)「お姉様……もし、敵の領地深くまで進軍して、周囲が深い草むらに囲まれていたら……。わたくしたち、行軍の疲れで人馬ともに休みたくなるかと思いますの……」
呂尚(太公望)(真剣な表情で)「そういうときこそ、最大の危機が潜んでるのよ、姫発ちゃん。特に──風が強くて乾燥してる日はね。敵が火を放てば、一瞬で地獄と化すわ」
武王(はっとして)「火を、放たれたら……!」
呂尚「うん。敵が上風から火を放ってきて、後方には精鋭部隊を伏せてるとする。火に気を取られて動揺したところへ、後ろからドーン。三軍は大混乱よ」
武王(小さく手を握って)「で、でも……どうすれば……!?」
呂尚(キリッと指を立てて)「落ち着いて、こうするの! すぐに《雲梯》や《飛楼》を立てて、高所から前後左右を監視。もし火が上がったら――」
武王(ごくり)「わたくしたちも……火をつける……のですか?」
呂尚「正解♡ 敵より先に、こちらの前方と後方に火を放つの。草を燃やして、あえて《黒地=焼け跡》を作って、そこに移動して布陣!」
武王「まあ……燃えた場所は、もう火が来ませんものね!」
呂尚「そう。焼け跡は火が進まないし、煙で視界も遮れる。敵が来ようとしても、こっちが先にポジション取ってるってわけ。さらに、強弩兵で左右を守って、残りの草地も焼いておけば、もう火攻めは無力よ♡」
武王(息を詰めて)「お姉様……火で囲まれ、敵の大軍が迫ってきたら……!? もう、どうしようもないのでは……?」
呂尚(静かに首を振って)「まだ勝機はあるわ。こういうときは、《四武衝陣》を組んで備えるの!」
武王「し、四武衝……?」
呂尚「兵を四方に分けて、中央を守る陣形よ。しかも、強弩兵は左右に集中配置。火と煙で囲まれても、敵が入り込めないよう守りを固めるの。……ただし、この策は《勝てはしない》けど、《敗けもしない》ってやつ。“無事に退く”ことを第一に考えた陣形よ」
武王(神妙に)「……負けないということも、大切な勝利ですのね」
呂尚「そういうこと♡ 火計には機を見て動く勇気と、退く覚悟の両方がいるの。姫発ちゃんも、ちゃんと覚えておいてね」
太史編「“火戦篇”は、火を使った奇襲にどう備えるかってお話だよ〜! 風向き・地形・草木の状態って、ぜんぶ火計のカギなの!」
武王「火に囲まれても、まだ……できることはあるのですね。わたくし……もう“火”は怖くありませんっ!」
呂尚「ふふっ、いい心構えね♡ 火は恐れるものじゃなくて、利用するものよ。──でも、その火を操れるのは、“冷静な心”を持った王だけ、ってことも忘れないでね?」
武王「はいっ! わたくし、ぜったいに冷静で、強くて、民を守れる王になりますっ!」
姫発(武王)「ねえねえ、お姉様っ。このあいだ戦に勝って、そのままズンズンと敵の領土に進軍してるんだけど――でも、まだ落としきれてない大きな城があって。しかも、その外には別の敵軍が要所に立て籠もってて、わたくしたちをじーっとにらんでいるの。こんなとき、どうしたらいいのかしら?」
呂尚(太公望)「ふん、敵の分断にうまく対応しないと、こっちがヤバい状況になっちゃうわよ? 城を包囲するときは、まずは車隊と騎兵を遠方に展開して、内と外の連携を断つの。そうすれば城内の食料は底をついて、補給もできなくなる。そうなったら、敵の士気はガタ落ち。城主だっていずれ降伏するしかないってワケ。」
姫発「あらっ、それはお見事ですわ! でもでも――もしも城内の敵と、外にいた別軍が、こっそり結託してたら……? 闇に紛れて突撃してきて、しかも外からもバビューンと襲いかかってきたら、わたくしたち、二方向からボコられちゃうかも!?」
呂尚「ああもう、姫発ったら心配性ねぇ。そういうときは、軍を三つに分けて布陣すればいいのよ。まずは地形をしっかり見て、敵軍と城の配置をガン見。それから、ワザと抜け道を残してあげるの。ほら、敵ってそういうの大好きでしょ? 敵は“ラッキー!逃げ道があるじゃん!”って錯覚して、ワラワラ突撃してくる。でもこっちは全部計算済み。退路だと思ってたその道は、精鋭の騎兵が待ち伏せしてるお・も・て・な・し♡」
姫発「わあ〜っ!まさに“入口でニッコリ、出口でズドン”な感じですのねっ!」
呂尚「さらに、突撃してくるのは基本、敵のエース級ばかり。その間に、城内に残ってるのは老人や負傷兵ばっかりになるのよ。そこに我が軍の第三軍を一気に投入して、スパーンと蹴散らすの。」
姫発「すごい……!それって、敵の逃げ道をわざと作ってあげて、その“善意”を逆手に取るってことですのね? まるで心理戦ですわ!」
呂尚「ふふっ、戦場ってのは“やさしさ”すら武器になるのよ? でもね、肝心なのは――勝っても調子に乗らないこと! 城を落とした後は、民の家を燃やしちゃダメ。お墓の木も切っちゃダメ。降伏した者は、けっして殺しちゃダメ。“お前らの主君がバカだっただけ。お前らには罪はない”――って、ちゃんと知らせてあげるの。」
姫発「あぁ……それなら、敵の民たちも安心して、わたくしたちに心を許してくれますわねっ。」
呂尚「そうよ。そうやって武力だけじゃなくて、徳でも服させるの。真に天下を取るってのは、そういうことなのよ。……わかった?」
姫発「うふふ、お姉様……♡ お話を聞いていると、ますます心が引き締まってきますの。これこそ――天下を治める者の覚悟、でございますわねっ!」
太史編「今回のテーマ:“震寇(しんこう)”ってなに? 夜に突然攻撃してきたり、数の多さで相手を動揺させようとする敵のことだよ!」
ポイントまとめ