武王(真剣なまなざしで)「お姉様……戦う前に、勝つか負けるかが分かれば、どんなに素晴らしいことでしょう……。けれど、そんなこと、本当に可能なのでしょうか?」
呂尚(穏やかな声で微笑み)「ふふ……まさに、それを見抜けるのが将帥の器よ、姫発ちゃん。戦の勝ち負けは、剣ではなく“気配”が決めるの。人の心、軍の雰囲気、それこそが兆し──“兵征”なのよ」
武王(胸に手を当てて)「兆し……それは、風のように目には見えず、けれど確かに感じるもの……でしょうか?」
呂尚(頷きながら)「そう。たとえば──」
呂尚(少しだけ表情を引き締めて)「もっとわかりやすく言えば、軍の音と動きが“清らか”であれば勝ち、乱れて濁れば負けるのよ」
武王(小さく息をのんで)「たとえば……?」
呂尚(軍鼓の手振りを真似て)「金の鈴が澄んで響き、鼓が軽やかに鳴り、旗が一糸乱れず進めば、神明が味方している証。だけど……もし旗が迷い、馬が怯え、鼓が重く鈍く濡れていれば──それは破滅の予兆よ」
武王(そっと自分の鼓動に手を当てて)「わたくしにも、感じ取れるでしょうか……? その、兆しというものを……」
呂尚(優しく微笑んで)「姫発ちゃんのように、周りをよく見て、よく聴く子なら大丈夫。兆しは風のように心に届くの。目に映る色、耳に届く音、兵の声、すべてが教えてくれるわ」
武王(微笑みながら)「まるで……戦の精霊たちが、わたくしたちにささやいてくれるようですわね」
呂尚(やや照れながら視線をそらし)「……かわいいこと言うわね、ほんと。──けどね、本当にそうかもしれない。風も空も、私たちの味方になることがあるのよ。たとえば……」
呂尚(さらりと説明口調で)「攻城戦ではね、“城の上に立ちのぼる気”を読むの。死灰のように沈んでいれば──攻略の好機。けれど、南に立ちのぼれば、堅く守られて攻めるべからず。東ならば、下手に手出しすると返り討ちにあうわ。こうした兆しを読むには、自然を味方につける心が必要なの」
武王(感嘆しながら)「まるで、空の言葉を読むようですわ……♡」
呂尚(小さく頷いて)「それこそが兵征。兵を導く、風のささやきよ」
「勝ち負けは、剣ではなく空気が教えてくれる──」
この篇では、まだ戦っていないうちから「兆し」によって勝敗を見極める兵法、「兵征」の極意が語られました。
呂尚はそれを、軍の音や気配、そして兵士たちの心の状態から読み取るよう姫発に教えました。
姫発はそれを「風のささやき」「空の言葉」と表現し、兵法をただの戦術ではなく、美しい感性として受け取っていきます。
武王(姫発)「お姉様ぁ、今日は音楽のお話なんて……まるで雅楽の授業のようですわねっ」
呂尚「ふふ、たしかに“律章”というと、王宮の音楽に思えるかもしれないけれど──兵法における“五音”は、それとは違う側面を持っているの」
武王(首をかしげて)「ちがう……のですか?」
呂尚「そう。“五音”とはすなわち──宮・商・角・徴・羽。これは天地自然の“気のゆらぎ”を五つに分けたもの。そしてこのゆらぎは、戦場にもはっきりと現れるのよ」
武王「まぁ……音のゆらぎが、戦の行方を……?」
呂尚(頷いて)「その通り。宮は静寂、商は鉄の響き、角は鼓のうなり、徴は火のきらめき、羽は人の声。これらが、五行(金・木・水・火・土)と響き合って、戦の“兆し”を告げてくれるの」
呂尚「たとえば──晴れた夜半、雲も風もない静けさの中で、軽騎兵を敵陣の九百歩手前まで遣わせるの。そして“律管”を構え、敵に向かって気を送るのよ」
武王(きらきらした目で)「律管って……ほら貝のようなものでしょうか?」
呂尚「もっと繊細よ。音を“聴く”ための管。そこに微かに返ってくる音によって、敵陣の気配がわかるの」
武王「音が返ってくるなんて……」
呂尚「そう。もし鼓のような振動が響けば“角”──つまり、西から攻めるべきと知れる。“火の揺らめき”が返れば“徴”──北からが良い。“兵器のぶつかる音”なら“商”──南から。“人の怒声”が羽、中央から。そして音なき静寂、これが“宮”──東こそ勝機」
武王(思わず胸に手を当て)「まるで……五音と五行が導いてくださるようですわ」
呂尚「その通りよ。そして、それぞれの音色が示す方向には、青龍・白虎・朱雀・玄武・勾陳──五神の加護がある」
武王「でも……そんな繊細な音、敵に気づかれてしまいませんの?」
呂尚(微笑んで)「だからこそ、音が大切なの。静寂の中の一音、鼓、火光、武器の響き、叫声……それらすべてが“気”を映す鏡になる。耳を澄ませば、戦場は語りかけてくるのよ」
武王(うっとりと)「お姉様……まるで音楽のような兵法ですわね……♡」
呂尚「ふふ、それは姫発ちゃんが心を澄ませてるから感じられるのよ。音は心に応えてくれる。軍の気配、士気の高さ、将の冷静さ──すべて音に出るの」
太史編(ちょこんと登場)「やっほ~! 今回はちょっと音楽っぽい兵法、“五音”のお話をまとめるよ♪」
この「五音篇」では、兵法における「音」の繊細な扱いを、まるで楽譜を読むように描きました。
呂尚は耳と心で聴く将。
姫発は無垢で澄んだ感性を持つ聴き手。
そして読者もまた、「音」を通じて戦の空気を感じていただけるよう工夫いたしました。
もしこの雰囲気をお気に召していただけましたら、次の篇もこのトーンで続けてまいりますわね✨
武王(姫発)(ぱあっと顔を輝かせて)「お姉様……この前の“軍勢篇”、とってもおもしろかったですの! でも、もっとこう……敵をびっくりさせちゃうような、“変化球”みたいな戦い方ってないのかしら?」
呂尚(太公望)(小さく笑って)「ふふ、姫発ちゃん、よく気づいたわね。まさにそれこそ、兵法における《奇兵》の真髄よ。敵の意表を突く……そのために、“戦のかたち”は、限りなく自由でなければならないの」
武王(目をまんまるにして)「“かたちがない”戦い……? そんなの、どうやって指揮するんですの……?」
呂尚(指を立てて)「戦とはね、“天で戦う”わけでも、“地で戦う”わけでもない。勝ち負けを分けるのは、“神のごとき勢い”を作れるかどうか。それだけ」
武王(小さく「はわわ」と呟いて)「し、神様の勢い……!? えっと、それって──」
呂尚(続けるように)「たとえばね──」
武王(ぽかん)「な、なんだかすごくいろんな方法が……!」
呂尚(目を細めて)「そう。戦いって、決まりきった正解がないの。だから“奇”が生まれる。敵の裏をかくために、予想外を演出する。それが“奇兵”──常識の外から、勝機をつかむ一手よ」
武王(胸に手をあてて)「なんて……ロマンがありますの……! つまり、戦の中で“想像力”こそが一番の武器だってことですわね?」
呂尚(やさしく微笑み)「そう、そして……その“奇”をうまく操るには、やっぱり将としての徳が必要なの。仁がなければ兵に慕われず、勇がなければ進まず、智がなければ惑い、明がなければ敗れ、精がなければ時を逃し、警戒なければ備えを失い……」
武王(真剣な顔で)「……すべての“奇”は、信頼と能力の上に成り立ってるんですのね……」
呂尚(頷いて)「だからね。“賢い将”がいれば国は栄えるし、いなければ滅びる。それほど“指揮官”は大切なのよ」
武王(微笑んで)「お姉様のような指揮官……わたくし、なれるかしら」
呂尚(そっと頭を撫でて)「きっとなれるわ。あなたなら、“奇”すらも味方にできるもの」
太史編(冷静にぽそっと)「“奇兵”っていうのは、普通のやり方じゃ勝てない時の“切り札”。使い方を間違えると逆に危ないけど、うまく使えば一発逆転もできる──」
奇兵とは、想定外を操る“知略”の技術。
だがそれは、真に有徳な将にしか使いこなせない。
だからこそ、呂尚と姫発の“信頼”がそれを可能にする──
武王(ぱちっとした瞳で)「お姉様……“勢”って、一体なんなのでしょう? ただ力を集めることとは、違いますの?」
呂尚(微笑を浮かべ)「ふふっ、姫発ちゃん、良い質問ね。“勢”というのは、ただの“力”じゃないの。力をどう動かすか──それが“軍勢”よ」
武王(目を輝かせて)「どう動かすか……?」
呂尚「そう。兵の動きは、敵の動きで決まるの。敵が進めば下がり、敵が止まれば動く。その変化の“はざま”にこそ、勝機が生まれるの」
武王(神妙な面持ちで)「まるで……舞を舞うときの“間合い”のようですわね」
呂尚「素敵な喩えね、姫発ちゃん♡ しかもね、“奇策”も“正攻”も、その源は尽きることがないの。勝者は、その湧き出る知恵を止めない者なのよ」
武王「でも、その知恵を敵に知られたら……?」
呂尚(ぴたりと指を立て)「そこが肝心。“至事は語らず、用兵は語るべからず”──つまりね、いちばん大切な作戦ほど、口にしてはいけないのよ」
武王「……黙して語らず、ですのね」
呂尚「その通り。敵に知られたら終わり。“兵”とは、議されず、見られず、知れられず、判じられず……それが理想」
武王「まるで幻のようですわ……!」
呂尚(すっと目を細めて)「そう、まさに幽霊のごとく。だから善く戦う者は──軍を並べる前に勝利を得、敵の刃が届く前に勝敗を決するの」
武王「……戦わずして勝つ。それこそ、最も高貴な兵法ですのね」
呂尚「ええ。そして、そうした者は──弱く見せておいて強く、遅れているようで先んじている。敵が気づいた時には、もう負けているの」
武王(唇を結んで)「では……恐れてはいけませんのね。迷ってもいけませんのね」
呂尚「“三軍の災い、狐疑に過ぎず”──軍を滅ぼす最大の原因は、恐れや迷いなの。時機が来たら、雷より速く、稲妻より鋭く。疾く、そして狂おしく!」
武王(胸に手をあてて)「わたくしも、いざという時には迷いませんっ。──信じるものを守るために!」
呂尚(そっと撫でて)「……そうね。姫発ちゃんがその心を持ち続ける限り、どんな敵にも負けないわ。だって、それが“軍勢”の本質なんだから」
太史編(元気に登場)「今回のテーマは“軍勢”だよっ! 力って言っても、ただの数じゃ勝てないの。勢(いきおい)って、もっとカッコイイ秘密があるんだ〜!」
武王(首をかしげて)「あの、お姉様……陰符って、前に教えてくださった“秘密の通信”ですよね? でも……まだ少し、難しくって……」
呂尚(優しく微笑んで)「ふふっ、陰符だけじゃ終わりじゃないのよ、姫発ちゃん。続きがあって、それが《陰書》っていうの」
武王(目を輝かせて)「まぁっ……陰符と、陰書……! 両方そろって、はじめて完全なのですねっ」
呂尚(頷きながら)「そう。陰符は“符”=印。そして陰書は“書”=文。つまりね、機密伝達は“物”と“文字”の両輪で成り立ってるってこと」
武王(小声でメモを取りながら)「ふむふむ……“符”と“書”の両方で、暗号を完全にするのですね……!」
呂尚(真面目に)「陰書は、敵にも味方にも読まれないように書く手紙のことよ。見られても分からない、でも合言葉を知ってる人だけはちゃんと読める。まさに“陰の書”ね」
武王「ふぇぇ……なんだか、とってもスパイみたいでドキドキしますわっ!」
呂尚(くすりと笑って)「ふふっ、でもね、ただスパイごっこじゃ済まないのよ。たった一文字の陰書が、十万の軍を動かすこともある。だから筆の一撇が、生死を分けるってわけ」
武王(息をのんで)「お、お姉様……そんなに重たいものだったのですね……」
呂尚「うん。だから“陰書を扱う者は、口を閉ざし、心を鎖す”って言われてる。読むのも命がけ、渡すのも命がけ。──だけど、本当に信頼してる人にだけは、託せるの」
武王(そっと手を胸に当て)「……わたくし、そんなお手紙……お姉様から受け取れるような人間になれるでしょうか……?」
呂尚(微笑みながら、そっと頭を撫でて)「もう、なってるじゃない。だって、あたし──今ここで、姫発ちゃんに陰書の秘密、ぜんぶ教えてるんだから」
武王(ぱぁっと笑顔になって)「あ……ありがとうございますっ、お姉様っ! わたくし、絶対に誰にも言いませんっ!」
呂尚「ふふ……それでこそ、わたしの王様よ♡」
太史編(ぴょこっと登場)「今回は“陰書篇”! さっそくポイントまとめてくね!」
Too史編(きゅっと手を結んで)「というわけで、陰書は“命がけの手紙”。でも、信頼できる人となら、心の奥で通じ合える──そんな絆の証なのかも、だね♡」
武王「陰書って、とても怖いけど……とても尊いものなのですね……。お姉様から学んだこと、ぜったいに胸にしまっておきますっ」
呂尚「ふふっ、それでこそ立派な王の器よ、姫発ちゃん♡」
太史編(ふんわり登場)「やっほ〜! 兵法っていうと難しく聞こえるけど、“兵征”っていうのはカンタンに言えば、勝つ兆しと負ける兆しの見分け方なんだよ♪」
勝ちの兆し
負けの兆し
太史編「ね、戦う前でも、こういうサインを見ていれば、なんとな〜く分かってくるんだよ! 姫発ちゃんも、きっとわかるようになるよ♪」